W ライフ
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ロケーション 2005年春、沖縄
登場人物 Toi ・ Ai ・ Satty
Toi ナレーション : 私がその話を Ai(あい・藍)叔母様から聞いたのは、2005年春、Mu(むつみ)さんが SPRout の編集長に抜擢された直後のことでした。
私は高校2年生になったばかり、何度か訪れた母の故郷沖縄へ一人で、仕事を兼ねてなんて初めてのこと。
父が借りていた一軒家を Ai(あい)叔母様が引き継ぐ形で住み始めたばかりでしたから、少し緊張気味になるはずの出張も、慣れている家に泊まれてリラックスできる、はずだったのに・・・。
それは最初の日の夜、寝る前のことでした。
洗顔して化粧水を頬に乗せる叔母様の顔を見て、私は絶句したのです。
んっ? どうしたの? 私の顔に何かついてる? ・・・あっいえ・・・その・・・ ははーん! スッピンがお母さんにウリでビックリしたんでしょ? エッ!・・・ハイ・・・まあ・・・ そうよね、私たちのスッピン知ってる人は限られてるから。 あなたで何人目かしらね、んーっ?
Toi ナレーション : 母はナチュラルメイクの達人でした。
Ai(あい)叔母様は眉をクッキリ描いて全体的にもシャープな、いわゆるキャリアメイク。
私が高校入学と同時に一人暮らしを始めて1年位経っていたこの日、スッピンを、まるっきり母のそれを久しぶりに眼にしたようで、私は息を飲んでしまいました。
私たちはね、上京してから事ある度に時々入れ替わってたのよ・・・ 楽しかったー!
同級生でも気付かなかったわね、自信あったものそれに関しては。
あなたのパパくらいかしら気付いたのは・・・ 確認しなかったけど。
いっ、入れ替わってたって・・・???
あなたが今見てるように外見が似ているだけじゃなくて、私達ね、性格も不思議なくらい似てるの。
いっ、今もですか?
今? どうかしら?
そうね、少なくとも貴女のママが Satty と一緒になるまでは・・・ 20年になるのねー!
少しずつ違ってきているんでしょうねたぶん、でも私は信じてるわよ、まだまだ入れ替われるって!
えーっ!
Toi ナレーション : 驚きました。
母はとても無口で物腰も穏やか、おはよ、おやすみしか口を利かないこともしょっちゅうです。
笑顔も口元を開かず眼を細めてニコリって、あの母が・・・!
快活で思ったことがそのまま口から出てくるような Ai 叔母様と、母が似ているなんて、入れ替われるなんて、私にはどうしてもイメージできませんでした。
でも目の前にいるスッピンの叔母様の顔は、どこから見ても私の知っている母そのものなのです。
中学を卒業して上京した時に相談して決めたのよ、こんなに似ているんだから同じ道を歩んじゃ勿体無いって、だから別々のキャラクターで行こうって。
でね、互いに教え合うの、出来るだけ詳細に、会った人の名前や人柄、その瞬間に感じたことも全部。
一言二言でピンときちゃうのよ、それがまた快感でね、その内ふたりともどっちの話か解らなくなっちゃうし、もう楽しくて仕方なかったわ!
何か変わったことがあるとね、早く帰って言わなきゃって、するとそんな日は Moi(もあ)も同じ顔して帰ってくるの!
Toi ナレーション : Moi(もあ)は母の通称、父や母の知り合いはそう呼びます。
母の本名は愛(あい)、叔母様の名前が藍(あい)、祖父母が双子の娘になぜそんな紛らわしい命名をしたのかわかりませんが、とにかく二人は互いを Toi(とわえ、叔母、姉の藍)と Moi(もあ、母、妹の愛)と呼び合うようになり、それがそのまま通称として定着したそうです。
母が私に永遠(とわえ)と名付けるまで、 Toi(とわえ)が Ai(あい)叔母様の通称だったことを知ったのは、私が中学に上がる頃でした。
ある日 Moi がね、心が凍ってしまった人に出会ったから、私が何とかしてあげなきゃならないのって言うの。
それから3年後ね、貴女が生まれたのは・・・永遠(とわえ)だって紹介されたわ。
ビックリしたけれど、嬉しかったのを覚えてる、二人が一緒にいられる時間がこれからは少なくなるんだなって感じてた頃だったから。
困ったのは友達連中よ、集合かけられてね、私に言われるの、Toi(とわえ)は Moi(もあ)の娘の名前に昇格しました! ですから今日からは私を本名の Ai(あい・藍)と呼ぶのよ、よろしくて!・・・ってね。
みんな、おめでとう!って言ってくれた。 えっ、本名は藍(あい)っていうの? っとか言って。
へえっー!
だからね Toi(とわえ)ちゃん! 私には貴女が自分の分身っていうか、娘っていうか、どっちもシックリ当てはまらないけど何かこう、特別な存在なのよわかる? そこんとこ、覚えておいてね!
あっ、はい・・・
Toi ナレーション : Ai 叔母様は微妙なこともダイレクトに口にするので時々返事に困ります。
でも、そんな叔母様と同じ言動をする母が本当に存在するのだろうか?と、私はそっちの方から頭が離れずにいました。
あの・・・
んっ、なにかしら?
それじゃ私が Wip にいた頃、叔母様時々泊まりにいらしてたじゃないですか、
それで母の部屋にずーっと入ったきりで、あの時って?
そうよ!
貴女が生まれてからは Moi と一緒にいられる時間少なくなったけれど、それはそれで慣れてたし、たまにで良かったのよあの頃はもう。
でも会ったら話は尽きなかったわね。
最初は服取り替えるの、そしてメイクも、それから話が始まるの、延々と・・・
Toi ナレーション : 叔母様は一瞬宙を見つめて嬉しそうに眼を細めました。
だからいつまでも部屋から出てこなかったんですね!
父は良いから放っておけって言うだけで知らん顔してるし・・・でも、その時の母って・・・
どう思う?
Toi ナレーション : 叔母様は少し意地悪そうに上目遣いで私を見ました。
想像・・・でき・・ないです・・ ちょっとなによそれっ! 私みたいな Moi は信じられないってこと?! 失礼しちゃうわね!
Toi ナレーション : 叔母様は笑いました。
いいわっ、少しずつお話して・あ・げ・る。 あなたのお母様の・こ・と・を・ね!
今日はおしまい! 寝ましょ!
はあ・・
Toi ナレーション : 寝られそうにありませんでした。
でも、前日資料の整理に追われて寝不足が幸い? と思えば良いのでしょうか。
目覚めると、叔母様はメモを置いて既に出かけられた後でした。
私はコーヒーを入れて2Fに戻り、ベランダに椅子を出して風に当たることにしました。
この家にポツンと一人、こんな日は初めてでしたし、なんとなくそんな気分だったのです。
庭のヤシの木に重なって、見る度に「ホテルカルフォルニア」を思い出す大きな家が目の前に建っています。
傾斜面中腹に建つアメリカ住宅は、2Fの増築こそあれ50年もの、コンクリートブロック造の外装は白塗りで、周りにもいくつかそんな建物が見られます。
丘の頂上には、ニュースに度々登場する基地があり、時々ヘリコプターが飛び交うそうです。
斜め後ろの少し上にそびえ立つ大きな貯水タンクには、天女の羽衣伝説にちなんだ大きな絵が描かれたランドマーク、すぐ横には国指定史跡があり、あの辺りはミステリーゾーンだから迂闊(うかつ)に近づかない方が無難なんていう話を、知っている知ってるなんて高校生が悪戯っぽく語れば、もう200年経ってるから落ち着いたなんて、真面目顔で話すオジサンもいたりして、沖縄の人に大山といえば「ああ、聞いたことのある」と説明は簡単です。
父はここを2003年の暮れ、祖母転院の際に借りました。
どうしてこの家にしたの?
Toi ナレーション : あれは2004年の夏休み、私は高校に入り、初めてこの家を訪れた日のことでした。
ほら、「アクターズ・スクール」の先に面白い形の建物が見えるだろ?
うん。
コンベンションセンターっていう多目的展示場で、ちょっと縁があってね、Moi と暮らし始めた頃かな。
それからほらっ、その右側に体育館があるだろ?
うん。
あれにも縁があってね。
へえっー!
時間無かったからねあの時は、即決だったな。
そうなんだ!
「ジミーズ」 も近いだろ!
「ジミーズ」 ってあのスーパー?
沖縄じゃ有名なんだよ、あそこが本店!
ふう~~ん。
Toi ナレーション : 昨夜の事を思い出すつもりが、母の事を考えるつもりが、目覚めていない頭に浮かんできたのは、そんな母を知っている?・・・父と話した一年前のことでした。
父はどこまで知ってるんだろう・・・全部かな? ええーっ!???