没我

二人の空間で生まれた言語は
融け合った時間の証
通じても、通じなくても
感じあえる
 



ロケーション 2008年5月1日(木)朝、 Toi の部屋
登場人物 : Toi ・ Zigger

ナレーション : その女は、求められることが悦びだった。
相手が好みに合さえすれば、乙女の世界に浸れる。
うるんだ瞳の奥に、
自分から求めた相手ではないという、
さめた感情を閉じ込めて。

Toi ナレーション : 以前読んだ父の本の一節が、目覚めたばかりの頭にフラッシュバックした。

こんな朝になぜ?

Toi ナレーション : 言葉を交わさずに過ごす彼との時間はまるで、飲むほど冴える強い酒を交わしながら、クラクラと揺れる視界に覚醒し、酔いつぶれるその瞬間が来るのを待っているようだった。
口から放出されなかった言葉は自分に返り、それが私を必要以上に冷静にする。
なのにそんな触れ合いは、何もかもが愛しいほど、かけがいの無い一瞬の連続。
私は眼を瞑り、暗闇の中でただ、流れに身を任せ酔いしれた。
・・・・・・
確かに私は、これほどの男に求められていること自体に酔っている。
こんな満ち足りた時間を過ごせる相手には、二度と出会うことは無いかもしれないのに、目覚めにどうして突然、あんなフラッシュバックがと、一瞬父が憎らしく思えた。
次の瞬間、
「ワタシかい?」
って、自分を指差しながらオドケル父が眼に浮かび、私は「プッ!」と噴出してしまう。

なに笑ってるんだ?

Toi ナレーション : 彼の声で我に返る。
これが今日の朝、彼と最初の会話だと、そう思ったら笑いが止まらなくなった。

ヘンな奴だな~っ

Toi ナレーション : そう言いながら、彼はそれ以上追及しない。
心の中で沸き起こる世界が狂気に満ちていることを、彼自身良く知っているからなのか、彼も自分の世界で何かを思い出したように、妙な笑いを浮かべてみせる。
それを眺めていると、ホッとしてしまう自分を時々、「変なのかな?」 と想う。
ここで黙っているとしばらくは、二人の間に沈黙の時間が過ぎて行く。
そんな流れが見えてしまうことが、今は誇らしい。
再び満たされた気分が、妙な目覚めを消し去ってくれた。
ふと見ると音を絞ったテレビに、次のクールから始まる「月9」の宣伝が流れている。

わあっ、優ちゃん今度はヒロインだ! へえっ、弟さんも出るんだ!

Toi ナレーション : 「ジャーッ」というフライパンの音がして、良い匂いが漂ってくる。

何か言ったか? うぅ~ん、なんでもない。 ねえ、おなかすいた! おう!

Toi ナレーション : ・・・いつの日か、
自分を捨て去れる相手に、
巡り合うことなんて
あるのだろうか・・・
 

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