Prologue
生命には、存続せよという本能が組み込まれ、
環境に適応しながら、その反応は複雑に変容する。
打算・・・それは進化の過程で生まれた、ひとつの機能。
「個として、種として生き延びよ」 という指令が組み込まれた生命は、進化を繰り返し、やがて知能を持ち、手探りで進むうちに必要に迫られて、生き延びる環境を秤にかける機能を身に付けた。
太古の時代には獲物を得るために。 言葉や道具が発達するにつれ、それは自ら生み出した仕組みや、人間関係に対しても。 そして社会が生まれ、あらゆる方向へと複雑に絡み合いながら、表も裏も解らなくなってしまうほど膨れ上がってしまうと、その「社会」という環境の中で生き延びる術であったはずの機能が、本来の役割を果たせなくなってしまった。
暗闇に落ち込んでしまうのかという不安が、世界を包み込んでしまう寸前に出現したネット社会は、あらゆる人に発言の場を提供することで、これまで表に出なかった「大人の世界」と呼ばれる「社会の裏側」を明け透けにしている。 それが縺れた糸を解く起因になり得るかどうかは、まだ誰にも解らない。 しかし、その動向を急激に早めているのは、種の生存本能なのかもしれない。
印象や気配と呼ばれる感性の信号。 それらは、雑音に溢れる文明社会と、複雑に絡み合った人間関係の中で容赦なく抹殺され、または変容を迫られる。 しかし、打算という機能によって無意識に都合よく塗り替えてしまった、無意識に受信拒否してしまったそれらの信号を、今度は探ることが、感じることが生き延びる術なのだということを、もはや種全体が気づいている。
未来を描いた物語には、しばしば賢者の議会が登場するが、何もかも見透かされてしまうあの場に一人立つ時の心、それがこの混沌を抜け出す術なのかもしれない。 しかしそれさえも、種に組み込まれたステップなのだろうか ?
「社会と人間関係の中で生き延びる環境を秤にかける機能」 は、その時何と呼ばれるのだろう …
宇宙時間の中で、「打算」 が生き延びた期間はほんの一瞬、進化の過程に過ぎない。